『観光社会学のアクチュアリティ』というタイトル。

『観光社会学のアクチュアリティ』という本を
11月に出版しましたが、
このタイトルで用いている
「アクチュアリティ」という言葉には
少し思い入れがあります。


観光社会学のアクチュアリティ

観光社会学のアクチュアリティ


ここで用いている「アクチュアリティ」とは、
通常言われるような意味での
「現実」とか「実際」という
意味ではありません。


そうではなく、ヴァルター・ベンヤミン
言うような意味に近いと思います。


三島憲一さんの『ベンヤミン』(p.12)の表現を用いるなら、

歴史がひとつの焦点に凝集しているある特定の状態

臨界点に達したプラズマ状態

どの瞬間にも無数の群れとなって天使が作られ、
神の前で讃歌を歌ったかと思うと、
歌をやめ無のうちに消えて行く(ような状態)


なのです。



ベンヤミン 破壊・収集・記憶 (講談社学術文庫)

ベンヤミン 破壊・収集・記憶 (講談社学術文庫)


つまり社会のむちゃくちゃとんがった
先端的な部分があるところ(観光という現象)に
凝集して現れたかと思うと、
次の瞬間には消え去っていくような状態を
私は「アクチュアリティ」という用語に託しています。


私なりの表現を使うなら、

冬の海の砂浜に枯れ枝で大きく描いた、
これまで見たことのないような
比類なく感動的で美しい絵であり、
それは次の瞬間には波にさらわれ
消え去る運命にあるもの


それこそが「アクチュアリティ」なのです。
観光社会学は、
まだこれまで見てこなかったような
移動の中の社会という
社会のとんがった部分を
感動的に描きだすものであり、
でも、それは移動という儚いものを
扱っているがゆえに、
ずっと永続的に存在するのではなく、
生成し続けなくてはならない運命にあるもの
ではないかという、そんな思いを託しているのが、
このタイトルなのです。


1月の出版記念シンポジウムでは、
こんなことも言おうっと。